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農村で暮らす (17)

No.73(2002.02.05)


私が住んでいた農村では年度末が近づくと地区や各種団体の年次総会が次々と開かれていました。

公民館長をした年には地区総会以外にも多くの組織の総会に出席する機会がありました。

それらのほとんどは無駄なことに時間を費やすかたちで議事が進行するものでした。

あらかじめ印刷物として各出席者の手元に配られているその年度の事業及び会計報告の内容を、担当者が全て読み上げていくのです。

それを読めば内容が一目瞭然であるにもかかわらずです。

「官」関係の組織ならある程度仕方がないのも分かります。しかし完全に「民」の団体も同様な方法で行なっているのには驚きました。

そんなことに時間をかけるために大切な議題に関しての議論は大抵結論が持ち越されます。

即決しなくても大きな問題が起こらないような議題は毎年の総会で恒例のように繰り返し登場していました。

その反面総会時に結論をださなければいけないような問題に関しては、事前に根まわしで決めておくというのが常套手段となっていました。

質疑応答の場面でも簡単な質問をする人はいても意見を述べる人はほとんど皆無ということが普通のようでした。

後に土地の人が何故皆自分の考えを言わないのかを教えてくれました。

一つは発言した内容に関して当然負わなければならない責任というものを嫌うからだそうです。

さらに発言したことによって万一新たな仕事が増えた場合に、発言者が言い出しっぺとしてそれをやらされる可能性が大きいことを警戒しているからとのことでした。

総会が終了すると同時に懇親会という名の飲み会に突入します。

その席では打って変わって色々な意見が続出するのもこれまたあらゆる総会での共通点でした。

地区においては前例のない事柄を根まわしで決めることができないので、それについて結論がでるまで何度も集まったりもしました。

そんな時には最初から酒を飲んで話すことさえありました。

なにか以前にもこれと似たような経験をしたような気がしました。

そうです。私が好きになれなかったサラリーマン社会とよく似ていたのです。

「お役所の掟」は役人の世界だけのものではなく、日本中上から下まで覆い尽くしているのかもしれません。


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