今の住まいにある便所は一応水洗です。
農村で8年間暮らしていた時の家では標題の汲み取り式便所だったんです。 集会所もあるというちょっと特殊な造りの家だったので、和式の大便器を備えた便所が二つ並んでいました。 昭和30年代後半に東京に移り住んだ時の社宅がやはり汲み取り式便所で、確か昭和40年代前半くらいまではそのまま使い続けていたと記憶しているのですが。 汲み取り式便所を利用するという生活環境はそれ以来のことでした。 小学生だった昔は、ただただ便所を利用するだけで掃除もしませんでしたし、特に関心がなかったので維持管理として親がどういうことをしていたか知りませんでした。 時々バキュームカーが来て汲み取っていく際に臭かったことくらいしか覚えていません。 大人になって再び使ってみると、汲み取り式便所について私の知らないことが色々あることが分かってきました。 同じ汲み取り式便所といっても何十年も経っているわけですから進歩して構造が改良されていたためか、便所の中はまったく臭いませんでした。 家の外の汲み取り口の横に細い煙突のようなものがあり、その上部に電動の換気扇が付いていて24時間回しっぱなしになっているからなんです。 空気は常に便器の穴に向かって流れ込み途中の横穴から煙突状のパイプを経て室外に排気されていました。 臭さが上がってこれないようにしてあるんですね、名案だと感心しましたっけ。 で、いざ使い始めてみるとすぐに上のほうまで一杯になってくるので困ってしまいました。 こんなに早く溜まってしまうのではしょっちゅう汲み取らなきゃいけないな、とさっそく悩みの種。 お隣りのお婆さんに状況を説明したところ、呆れて笑いながらも親切に教えて下さいました。 そんな時はバケツに2~3杯の水を入れればよいとのこと。 即実践してみるとゴボゴボ音をたてながら底の方に沈んでいきました。 この水入れは上の方まで溜まってくるたびに行なうのでした。 それでも上まで迫ってきたらいよいよ汲み取りを清掃業者に頼むことになります。 我家では年に3回から4回汲み取りを依頼し、料金は1回につき三千円から四千円くらいだったと思います。 現在の汲み取り料金は全国的に立米(りゅうべい=立方メートル)当たり六千円から七千円らしいので、当時は(あるいは当地は)かなり安かったことになりますね。 清掃員は地域ごとに担当が決まっていたらしく、我家に来るのは短髪の気のいい兄さん(といっても私と同年代くらいに見えた)ってな感じの親しみやすい男性でした。 汲み取り作業をする際にはこちらも協力しなければならないことを初汲み取りの時にその人から教えられました。 汲み取っている最中に便器の穴に水を入れ続けなければならなかったのです。 手洗い用の蛇口にホースをつないで待機し、その人の合図で放水を開始し、また同様に合図で放水を止めるという、息を合わせた共同作業でしたね。 昔親はこんなことをやってたっけか、記憶にありません。 便所の話で随分引っ張っている私ですが(苦笑)、さらに次回に続けます。 |
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