トップページへ

農村で暮らす (5)

No.61(2001.09.17)


私が移り住んだ農村集落で、古くからそこに住んでいたのは十数戸だと年配者に教えていただきました。

その後分家をしたり他所から来たりで私が移住した時点では三十戸近くに増えていました。

そのなかで我家を含めてよそ者はほんの数軒で、残りの家は2代さかのぼればすべて親戚関係になるとのことでした。

さらによそ者といっても私達以外は近隣の集落出身者で地縁はある方ばかりでした。

そのせいか最初のうちは皆さん似たような顔付きをしているように見えたため、人違いをすることもありました。

それから数ヵ月後にようやく顔と名前が一致するようになりました。

あらためて皆の顔を見比べてみると、兄弟のような近親者のなかにはそっくりな顔をしている例はあったものの、総じて似かよっている風には感じなくなっていました。

おそらくその土地その土地の顔付きの特徴というものはどこへ行ってもあると思います。

人口過密な都会で生活していると多様な顔に接しているので細部に注意をはらわなくても簡単に個人の識別ができていたのでしょう。

そんな環境で長く過ごした私の判別能力がなまっていたのかもしれません。

また分家のためか同じ姓を名乗る家が多いことも私を混乱させました。

そこでは名字だけでは個人を特定できないために通常は下の名前で呼び合っていました。

いわゆる家長だけではなく女性も名前をおぼえなければなりませんでした。
○○さんの奥さんという呼び方は通用しません。

ですからたかだか30戸弱とはいっても家族が多い家もあり記憶しなければならない名前は相当な数になりました。

一方先住者の方々は私の名字と顔だけおぼえればよいのです。

多くの相手には自分のことを知られていて自分は相手のことを把握できていない。

なんともいえない居心地の悪さを感じ、精神的にも重荷を背負わされた状態がしばらくは続きました。


前に戻る 目次へ戻る 次を読む