TIN PAN ALLAY 第一弾
4月14日付ミュージック・ラボ(アルバム・チャート)26位初登場
天才ギタリスト
鈴木茂が昨年10月単身渡米、リトル・フィート他ウエストコースト超一流ミュージシャンとセッション、完成した話題作、おかげさまで好調に売れています。
鈴木茂は、帰国後新バンドの為のメンバーを探していたが、佐藤博(キーボード)、田中章弘(ベース)林敏明(ドラムス)の三人と共に、ハックルバックという名の新バンドを結成、ステージ活動を始めた。佐藤博等はこれまで主に関西で活躍していたミュージシャンであり、特に佐藤博は、ブルース・フィーリング豊かなベテラン・プレイヤーであり、佐藤の高い音楽性と鈴木茂の音楽性の出会いがハックル・バックの可能性を導き出してゆくであろう。
特別寄稿 昨年春かぐや姫の所属するユイ音楽工房の陣山氏(たくろうオールナイトニッポンで、サイン要求のファンレターが三千通を越したというスタープロデューサー)から、当時のキャラメルママのマネージャー桑原氏を紹介された。又、厄介な話でもと迷惑千万の面持ちの小生、この顔色の冴えないペンキ屋スタイルの男と話すこととなった。彼、開口一番「はっぴいえんどからキャラメルママ、そして今度ティン・パン・アレイという音楽集団を編成し、彼らの創造する音楽を武器に本格的にニューミュージック戦線に出征したい。プロモートしてくれますね。」ときたものだ。 ----以来、このペンキ屋マネージャーと共に、各メジャーが喉から手が出るほど欲しがっていた四人との付き合いが始まった。 南こうせつは「田中さん、クラウンがティン・パン・アレイと契約したって本当?」と、半分どころか殆ど信じられないといった顔で問い但すし、パンダは「細野さんがクラウンに入るなんて嘘でしょう。」と宣う。つまり、演歌のクラウンというレーベルイメージと彼らのはっぴいえんどからの「威光」は結びつかないというのが業界常識というものか。 こうなったらあの桑原ペンキ屋のうす汚れた顔を、真赤に染めるような大プロモーションを展開してやろうと秘かに張切った次第だが------。 三月二十五日に発売される「鈴木茂バンドワゴン」から、愈々当社の「冒険」が始まった。このLPのプロモーションの為に、小坂忠との全国ツアーが四月初旬から組まれているが、この準備リハーサルのために、当社スタジオは、毎晩彼らの練習場と化す。細野晴臣氏のアルバムは一応六月二十五日の予定だが、割と暢気に余裕を以て、春の夜長を彼らしいレコーディングが進行中である。 林立夫、松任谷正隆両氏は相変わらず裏方として、別れたかぐや姫のレコーディングをも、それぞれ助けてくれている。 正さに企画制作の準備は、当社のニューミュージックの「充実」を仲間意識の中で確認しながら進んでいる。 かぐや姫の大ヒットを礎に、ティン・パン・アレイ、イルカ、と派生して展開される「冒険」に、「宣伝」の当事者として取組んでいく宿命を背負わされて、いまさら陣山氏をうらんではいられない。洋盤レーベルもない、ニューミュージックプロジェクトもない当社の「弱味」を悔やんでいる余裕もない。南こうせつのデビュー以来、苦心して当社のフォーク路線を赤貧の状況で守りつづけてきた努力が今、報われた、と満足している暇もない。要は、充分な意欲と理解で彼らをプロモートしてゆく当社の「姿勢」をリードする中で「啓蒙」と「創造」がくり返されるのだ。
演歌のクラウンがニューミュージックに手を染めて以来、その仲間意識の充実が感じられる昨今である。勿論、かぐや姫の一連のヒットに負うところは大であるが、これから始まるティン・パン・アレイとの「冒険」に寄せる期待にも依存しているのだ。時代の移り変わりとともに到来する新しいものは、その新しさの故に時代意義を有する、とは著名な哲学者の言だ。当社もこれから始まる新しい体験に、一つの「変革」を志すことがあるかもしれない。(S50.3.23) |